飛べないブタはただのブタさん

もはやブタはいません。

仕分け‐「科学」と「技術」は違うぞ!

先週の金曜日は行政刷新会議の3日目で、文科省管轄の事業が仕分けされていて、スパコンや若手研究員育成の事業など興味があったので、中継を聴いていた。聴いた結果はもう呆れてしまって、開いた口が塞がらないという感じだった。なんというか頓珍漢というか滑稽というか、恐らくこの会議の意義は、国民にオープンにしたこと以外何もないんじゃないだろうか、と思った。

勿論聴いていて、予算削減や廃止になった結果が妥当なものもあったが、ほとんどは財政上に明らかにジレンマが生じている問題だけだった。っていうかそれが本来の行政刷新会議の主旨なんだろうけど、問題は、財務省および民主党側が持っている、事業に対する認識が、明らかな調査不足であったり、問題のすり替えであったり、とにかく揚げ足を取らんばかりに、削減すべき理由を論っていることだった。それに省庁側(今回聴いたのは文科省だけだから、他のところはわかんないけど)との認識のずれ、また省庁の準備不足など、削減されてもしょうがありませんよね的な態度で臨んでいる感じも否めなかった。そして仕分け人の言いたい放題。もちろん事業廃止ありきの議論は、何というか本当に意味があるのか、ただの晒し首なんじゃないかとも感じられた。こういう議論がこれまでも当たり前のように展開されてると思うと、本当にゾッとする。怖い。


特に気になったのは財務省側の認識不足(ただこれは省庁側も認識が足りてないような感じもした)。その中でも、「科学」と「技術」の違い、およびそれらの「競争」の意味をきちんと理解してないんではないかと思った。



まずスパコンについて「世界一を目指さなくてもいいんじゃないか?」といった民主党員の発言。理研スパコンは、気象予想シミュレータや、人体の循環システムのシミュレーションなど、これまでの性能では実現出来なかったレベルのシミュレーションを可能にするために期待が高まっているというように、最低世界一の性能を実現しないっていう当たり前の状況なのに、その理念を否定するような発言は本当に呆れてしまった。おそらくそんなに予算を注ぎ込んでも、リターンが望めないからやる意味がないんじゃないか、という姿勢だったんだろうと思う。しかしスパコンは「技術」のための「技術」である。技術は競争して切磋琢磨することに意義がある。2番手に甘んじるならむしろいらない。その点に認識が甘いんじゃないかと思った。外国に借りるべきだ的な意見もあったような気がしたけど、例えば軍事目的に主に利用されているアメリカが到底貸してくれるとは思えない。この辺も現状の認識不足であると思う。


一方で、Spring-8に関しては「いつになれば交付金ゼロで採算性を確保できるか」「納税者に対するリターンはあるのか」「民間ではそういう発想は当たり前だ」といったトンデモ発言も飛び出した。民間では〜〜は当たり前だというのはもはやテンプレートだろうか。Spring-8は、自分の中では「科学」のための「技術」であるというカテゴリに分けられると思う。技術にリターンを求めるのは当然ではあるが、科学のリターンは、これまでにない新しい「知」であり、一言にナンボですかという話では片付けられないし、それを支援出来ることが国家のプライオリティであると思う。そこに対する認識もなかったんじゃないか、と思った。


後は、博士課程の学振・科研費関係について、「研究は自然淘汰・学振は生活保護のようなもの、甘えるんじゃない」という危険な発言まで飛び出してきた。そもそも研究は競争させるもの、という安易な発想を持っていること自体が危ない考えである。研究は人の数だけテーマがある。もちろん分子生物学などホットな分野に関しては割と競争が大きく占める部分もあるかもしれないけど、本来は研究は、先人達が積み上げてきた知からさらに様々な可能性を探求することにあると思う。そのためには、研究者の絶対数はもちろん、それら研究者同士の交流など、流動的な研究者の活動が必要であると思う。なのに博士を減らせ、という発想はどうかと思う。主観+思いつきで言っているとしか考えられない。



というような感じに個人的には受け止めたので、自分の中でも大きく間違っている認識があるかも知れない。それでもこういう適当というか何でもイチャモンつけて予算を減らす(昔はその逆もあったんだろう)というやり方をするぐらいなら、何も言わずにガンガン削って、文句が出れば、その事業についてきちんと精査して改めて評価をする、というやり方の方がフェアだろう。とにもかくにも全員が問題点に対する認識がずれたまま会議をしてしまうことの怖さを改めて実感した。こういう具合で国はこれからも動いて行くんだろう。本当に研究者で一生暮らしていきたい人は、企業の研究者になってその道を極めるか、早めに海外に出て様々な出会いを求める方がいいんだろう。